※2026年8月時点の情報です。
公的年金の先行きに不安があるから自助努力を促す
その援助を最も厚く受けるのは、自力で老後資金を作れる高所得者
iDeCoの月6.2万円化は、老後支援として見れば金持ち優遇
結論
2026年12月から、会社員のiDeCo拠出限度額は企業年金と共通で月6万2,000円へ引き上げられる予定です。
厚生労働省は改正の目的を「老後に向けた資産形成を促進する観点」と説明しています。
しかし、iDeCoの掛金は税額控除ではなく所得控除です。
同じ金額を拠出しても、所得税率が高い人ほど減る税金は多くなります。
さらに、低所得者ほど毎月6万2,000円を原則60歳まで封印する余裕がありません。
お金に余裕があるほど枠を使いやすく、所得が高いほど同じ掛金から得られる減税額も大きい。
所得税全体が逆進税になったという話ではありません。老後資金形成の支援として見ると、金額ベースの恩恵が高所得者側へ偏るという話です。
会社員の上限は月2.3万円から6.2万円へ
| 月額 | 年額 | |
|---|---|---|
| 現在 | 2万3,000円 | 27万6,000円 |
| 2026年12月以降 | 6万2,000円 | 74万4,000円 |
| 増加分 | 3万9,000円 | 46万8,000円 |
企業年金がない会社員は、年間46万8,000円も多く拠出できるようになります。
企業年金がある会社員は、企業型DCの事業主掛金やDB等の他制度掛金相当額と合わせて月6万2,000円が上限です。
同じ46.8万円でも高所得者ほど減税される
企業年金がない会社員が、改正で増える年間46万8,000円を追加拠出した場合の概算です。
| 所得税率+住民税率 | 追加の年間減税額 | 減税を差し引いた手取り減少 |
|---|---|---|
| 非課税 | 0円 | 46万8,000円 |
| 5%+10% | 7万200円 | 39万7,800円 |
| 20%+10% | 14万400円 | 32万7,600円 |
| 33%+10% | 20万1,240円 | 26万6,760円 |
| 45%+10% | 25万7,400円 | 21万600円 |
※住民税率を10%とし、復興特別所得税を除いた概算です。所得控除によって税率区分をまたぐ場合、実際の減税額は小さくなります。
同じ46万8,000円をiDeCo資産へ移しても、所得税率5%の人は使える手取りが約39万8,000円減るのに対し、45%の人は約21万1,000円しか減りません。
所得税率45%の人は、追加拠出額の55%に当たる約25万7,000円の税負担が軽くなります。
所得税・住民税が非課税なら、拠出時の税負担軽減は0円です。
国税庁の所得税率は、課税所得1,000円以上の5%から4,000万円以上の45%まで7段階です。
金持ちは二重に有利
- 毎月6万2,000円を長期間使えなくしても生活に困りにくい
- 同じ掛金でも限界税率が高いため減税額が大きい
- NISAの年間360万円を使い切った後の非課税運用枠として使える
- 高税率の現役期に所得控除を受け、所得が減った退職後に受け取れる
受取時に課税される場合があるため、拠出時の減税額がそのまま生涯の利益になるわけではありません。
それでも、一時金は退職所得控除を超えた部分の原則2分の1が課税退職所得です。現役時の税率が高く、退職後の税率が低い人は、単なる納税延期ではなく生涯の税負担を減らせます。
一般会社員が満額にすると受取時の控除からあふれる問題は、こちらの記事で計算しています。
所得控除の弱点は政府も認めている
これはiDeCoだけの偶然ではなく、所得控除方式そのものの性質です。
政府税制調査会の資料でも、所得控除の税負担軽減効果は金額ベースでは高所得者ほど大きいとされています。
同じ資料では、税額控除なら所得水準にかかわらず軽減額を一定にでき、所得控除より所得再分配機能が高いと説明しています。
政府は所得控除が高所得者ほど得になると分かったうえで、iDeCoの所得控除枠を大幅に広げています。
老後不安へ対応するなら税額控除か国の上乗せ
本当に老後資金を作れない層を支援するなら、所得控除より次の仕組みの方が筋が通る。
- 所得税率に関係なく軽減額が同じになる税額控除
- 掛金に対する国の定率上乗せ
- 低所得者ほど上乗せ率を高くする仕組み
- 非課税でも恩恵を受けられる給付付き税額控除
ところが実際に広げたのは、毎月6万2,000円を出せる人が、高い税率で所得控除を受ける枠。
公的年金を補うために自助努力を促しながら、その援助を最も厚く受けるのが自力で老後資金を作れる層。
何ともあほらしい制度設計です。

